環形動物(かんけいどうぶつ)とは、環形動物門(学名: Annelida)に属する動物の総称である。ミミズ、ゴカイ、ヒルなどが環形動物に属する。陸上、海中、淡水中と広い範囲に生息しており、体長は 0.5mm 程度から 3m に達するものまで多岐にわたる。
一般に細長い。左右対称で、多少とも腹背の区別があり、節足動物程には目立った附属肢はない。いわゆる蠕虫の典型と言ってよい。体には骨格等はなく、柔らかい。えらかまたは皮膚で呼吸する。
体は環状の体節が直列に並んだ構造をしている(体節制)。体節の構造は基本的にはどれも同じで、頭部以外の体節には、それほど大きな差はない(同規体節制)。なお、節足動物とは異なり、環形動物の体節は、内部の体腔をも区分している。
体は細長く、前端と後端以外の体節は、普通はほぼ同じ形である。前端には口前葉があり、ここに目や口触手などがある。ただし、ヒル類、ミミズ類では口前葉そのものが退化的で、判別できないこともある。多毛類では、イバラカンザシのように固着性のものでは、眼などは退化し、逆に触手が非常に発達するなど、変形が著しい。
体の先端にある口を含む体節を囲口節と言い、疣足を欠くなど、それに続く体節とはやや形が異なる。それ以降は、ほぼ同型の体節が並んでいるのが普通である。ただし、ミミズ類では体前方に環帯という複数体節がまとまった構造が見られる。逆にヒル類では、体節の表面が、さらに襞によって区切られるため、見かけでは実際の体節数より多くの区切りが見られる。
多毛類では、各体節の側面からは疣足を生じる。疣足は、肉質の突出した構造で、関節等はないが、内部の筋肉で動かすことができる。表面からは触糸が突出し、また多数の剛毛が並ぶ。それらを使って、匍匐移動し、あるいは遊泳することができる。貧毛類では、疣足はないが、剛毛が決まった配置で並んでいる。ヒル類では、ごく一部のものが、剛毛を持つにすぎない。
消化系は先端の口から後端の肛門までほぼ直線的。循環系は閉鎖血管系をもち、緑色色素のクロロクルオリン(ケヤリムシなど)または、赤色色素のエリスロクルオリン(ミミズ)、エリトロクルオリン(ゴカイ)、ヘモグロビン(ヒル)によって、体内の酸素運搬を行う。ただし、心臓はもたず、弁のある血管自体が収縮することで血液を循環させている。脳神経節と腹側神経索からなる、比較的良く発達した神経系をもつ(はしご状神経系)。
ミミズ、ヒル類は雌雄同体だが、他の環形動物は雌と雄の区別がある(雌雄異体)。多毛類では体外受精、他のものでは交尾による体内受精が行われる。
発生は、多毛類ではトロコフォアが見られ、その後半に体節が作られることで成体の形になる。貧毛類とヒル類では直接発生が行われる。
海産または淡水産、及び湿った土壌中に生息し、乾燥した陸上で生活するものは少ない。多毛類はほとんどが海産で、わずかに淡水産のものがある。多様性はこの類が最も大きい。底生の種が多いが、浮遊生のものもある。潜行性、匍匐生、巣穴を作って定着し、デトリタスを触手で集めるものなど、様々である。貧毛類とヒル類はむしろ淡水産の種が多く、陸生種もある。特に貧毛類では陸生の種が多く、陸上の生態系では土壌の形成に大きな役割を担っている。
いわゆる旧口動物である。体節制が発達していることから、節足動物と近縁性が、海洋性のいくつかの種にはトロコフォア幼生になるものがあることから軟体動物との近縁性が古くから主張された。しかし、このうちの節足動物との近縁性は近年否定される傾向がある。他方、軟体動物との近縁性は現在も認められている。軟体動物の一部に見かけ上の体節制的な特徴が見られることから、体節制を持つ祖先からこの2つ(あるいは節足動物を含めて3つ)が分かれたと考えられていたが、現在では軟体動物の体節制が疑問視されている。
古典的には、多毛類・貧毛類(ミミズ類)・ヒル類の3つの群をみとめ、それぞれを綱として立てることが行われてきた。ただし、現在は大きく見直しが行われている。
このうちで、ミミズ類・ヒル類の2つの群を認めることについては現在もひとまずは継承されている。貧毛類とヒル類は、外見的には多毛類より単純であるが、内部構造では体節の分化も進んでいて、より発展的なものと考えられる。多毛類は他の2群を含めば単系統をなすが、それらを除くと側系統をなすものと考えられる。
他に、吸口虫類が独立の群として、それにムカシゴカイなどを原始環虫類としてそれぞれを独立した綱と認めて立てる場合があったが、現在ではこれらは多毛類の一つと見なされることが多くなった。
他に、有鬚動物は特殊な体制の動物として有名であるが、近年ではこれも多毛類の1つとしてシボグリヌム科とされる。そのほかに、ユムシ動物や、星口動物門も環形動物に入れる考えもある。
以下に白山他(2000)で採用された体系を示す。これはやや古典よりのものである。