オタネニンジン(御種人蔘) は、ウコギ科の多年草。原産地は中国の遼東から朝鮮半島にかけての地域といわれ、 中国東北部やロシア沿海州にかけて自生する。
薬用または食用に用いられ、チョウセンニンジン(朝鮮人蔘)、コウライニンジン(高麗人蔘)、また単に人蔘とも呼ばれる。
一方、野菜のニンジンはセリ科であり、本種の近類種ではなく全く別の種である。
本種は元来「人蔘」と呼ばれ、中国、朝鮮半島、および日本では古くからよく知られた薬草だった。枝分かれした根の形が人の姿を思わせることが、その名称の由来といわれている。
「御種人蔘」の名は、八代将軍徳川吉宗が対馬藩に命じて朝鮮半島で種と苗を入手させ、試植と栽培・結実の後で各地の大名に「御種」を分け与えて栽培を奨励したことに由来する。これ以前の「人蔘」は朝鮮半島からの輸入に依存していた。
中国東北部では「棒槌」(bàngchuí、「木槌」「洗濯棒」の意)とも呼ばれる[8]。
このように「人蔘」の語は元来本種を指すものだったが、日本においては、江戸時代以降、セリ科の根菜“胡蘿蔔”[9](こらふ、現在のニンジンのこと)が舶来の野菜として知られるようになると、本種と同様に肥大化した根の部分を用いることから、これを類似視して、「せりにんじん」などと呼んだ[10]。
時代が下るにつれて“せりにんじん”は基本野菜として広く使われるようになり、名称も単に「にんじん」と呼ばれることが多くなったが、一方本種はといえば医学の西洋化につれて次第に使われなくなっていったことから、いつしか「人蔘」と言えば“せりにんじん”のことを指すのが普通となった。
その後、区別の必要から、本種に対しては、明示的に拡張した「朝鮮人蔘」の名が使われるようになった(レトロニム)。
戦後になると、日本の人蔘取扱業者は輸入元の韓国に配慮し、「朝鮮」の語を避けて「薬用人蔘」と称してきたが、後に「薬用」の名称が薬事法に抵触するとする行政指導を受け呼称を「高麗人蔘」へ切り替えた。[11]
以上2種類の植物について、各国語の呼び名を対照すると以下のとおりである。
日本語 中国語 (繁体字/簡体字) 朝鮮語 英語 本種 高麗人蔘、朝鮮人蔘 人蔘/人参 [rénshēn、ジェンシェン] 인삼 (人蔘) [insam、インサム] ginseng [ジンセン] (中国語より) ニンジン にんじん (人参) 胡蘿蔔/胡萝卜 [húluóbo][9]ただし韓国産の土産物用・輸出用の人蔘製品については、最大の顧客が日本(人)であることから、単に「人蔘」とはせずに「高麗人蔘」(고려인삼 [Goryeo insam、コリョインサム])を名乗る場合が非常に多い。また、「高麗はかつて朝鮮に存在した統一王朝の名称であり、その頃から栽培が始まったためにこの名がある」といった旨の説明がしばしば添えられている。しかし、実際は日本から逆輸入された名称である。
現在、全体の70%以上が韓国と中国で栽培されているが、日本でも江戸時代から栽培されている。
古くから薬効が知られ珍重されていたが、栽培は困難で、18世紀はじめの李氏朝鮮で初めて成功した。韓国では忠清南道錦山郡と仁川広域市江華郡、北朝鮮では開城市が産地として有名。中国では長白山(白頭山)の麓で「長白山人蔘」として栽培される。日本では福島県会津地方、長野県東信地方、島根県松江市大根島(旧八束町)の由志園などが産地として知られる。
栽培にはおよそ四年ほどの月日を掛けた上で収穫されるが六年根も存在する。
栽培物より天然物の方が薬効が強いが、野生の人蔘の採取は非常に困難で、産地でも高値で取引されている。
主要な薬用部位は根で有用成分はジンセノサイドとよばれるサポニン群で、糖尿病、動脈硬化、滋養強壮に効能があり、古くから服用されてきた。血圧を高める効能があるため、高血圧の人は控えるべきだと言われてきた。しかし、血圧の高い人が飲むと下がるという報告もあり、実際は体に合わせて調整作用があるともいわれている。また、自律神経の乱れを整える作用もある。炎症がある時(風邪などの感染症の発熱時、体にせつ(おでき)、ようなどの大きな腫れものある時など)は避けること[12]。
漢方では他の漢方の薬効を強める働きがあるといわれ、単体だけでなく他の漢方と併用する場合もある。
皮を剥ぎ、根を天日で乾燥させたものを白参(はくじん、ペクサム、백삼)、皮を剥がずに湯通ししてから乾燥させたものを紅参、(こうじん、ホンサム、홍삼)ということもある。なお、日本薬局方においては、根を蒸したものを紅参としている。他に、濃い砂糖水に漬け込んでから乾燥させる糖参もあり、白参に分類される。
江戸時代には大変に高価な生薬で、庶民には高嶺の花だった。このため、分不相応なほど高額な治療を受けることを戒める「人蔘飲んで首括る」のことわざも生まれた[13]。「人参で行水」は医薬のかぎりを尽くして治療をすること。[14]
韓国では煎じたものを人蔘茶(インサムチャ)として飲用したり、サムゲタンなどの料理にも利用するほか、乾燥させる前の「水参」(スサム、수삼)をスライスして蜂蜜につけて食べたりもする。人蔘入りの栄養ドリンクやガム、石鹸なども市販されている。日本においては、韓国料理の材料として用いられる他、天ぷらの材料とすることがある。
北朝鮮では開城の人蔘酒が主要な輸出品となっており、韓国でも京畿道坡州市の烏頭山統一展望台などで購入できる。
ウコギ科の薬用植物には他にアメリカニンジン(花旗参)、トチバニンジン(竹節人蔘)、サンシチニンジン(田七人蔘)、エゾウコギなどがある。
一部ではこれらから抽出し精製したものを『ジンセン』などと呼称している。が、『ジンセン』とは本来、朝鮮人蔘から抽出されたエキスを指す。
なお、日本には同属の種としてはトチバニンジン、エゾウコギなどが自生している。