カワガラス(河烏[4][5]、川鴉、学名:Cinclus pallasii Temminck, 1820)は、スズメ目カワガラス科カワガラス属に分類される鳥類の一種[2][6]。
南北アメリカ大陸(新北区、新熱帯区)に分布するメキシコカワガラスの近縁種。
ヒマラヤ北部からインドシナ半島北部、中国、台湾、サハリン、日本、カムチャツカ半島に分布する[7]。生息地では、基本的には留鳥である。
日本では、北海道、本州、四国、九州、屋久島にかけて広く分布する[4]。留鳥として、河川の上流から中流域にかけてと山地の渓流に生息する[7][4]。
全長は21-23 cm、翼開長は約32 cm[4][8]、体重65-90 g。ヒヨドリやツグミより少し小さい。全身が濃い茶色(チョコレート色[5]、光の具合により赤茶色に見えることもある[8]。)の羽毛におおわれているのが名前の由来だが、カラスの仲間ではない[注釈 1]。尾羽は短めで黒味の強い焦茶色[8]。目は茶色で、目を閉じると白いまぶたが目立つ[8]。雌雄同色[7][5]。くちばしは黒く[5]、足は灰色でがっちりしている。ミソサザイを大きくしたような体形で、短めの尾羽を立てた独特の姿勢をとる[4]。幼鳥は喉から腹にかけて白くて細かいうろこ模様がある。
後姿と尾羽
平地から亜高山帯の川の上流から中流の岩石の多い沢に生息する。冬期(積雪期)には下流側に生息場所を移動することもある。一年中、単独(非繁殖期は単独で行動している[9])もしくは番いで行動し群れを形成することはない。つがい形成期には、一夫二妻行動をとることがある[10]。ピッピッと鳴きながら、速い羽ばたきで川面の上を一直線に飛翔する[7][4][5]。頑丈な脚で岩をつかみ、水流の圧力を利用して川底を歩きながら水中で捕食を行う[5]。尾羽を上下に動かしたり、風切羽を半開きにしたり、まばたきし白いまぶたを見せながら、石や流木の上で休息する[7]。
食性は動物食。水に潜ってカゲロウ、カワゲラなどの幼虫などの水生昆虫やカニなどの甲殻類、小魚を捕食する[7][4][5]。水面上を泳ぎながら首を水中に入れて覗き込み、頻繁に潜水する[11]。水中では水底を這うように歩き回って川底の餌を探し、『渓流の素潜り名人』と称されることがある[4]。水にもぐっているときは羽毛の間に空気がふくまれるため、全身が銀色にみえる。
ほかの鳥にくらべて繁殖を始めるのが早く[7]、12月頃からオスがさえずり縄張り宣言を行う。暖地では1月頃から繁殖を始める[4][5]。滝の裏の岩の隙間にコケや植物の根で半球状のドーム形の巣をつくる[4][5]。岩の陰やコンクリート護岸の排水口、橋桁[12]などの人工物にも巣を作ることもある[5]。造巣の際の雌雄の貢献度はほぼ等しく分業は行われない[13]。日本では2-6月に1腹4-5個の卵を産む。抱卵日数は15-16日で、雌が抱卵する育雛は雌雄共同で行う[11]。雛は21-23日で巣立つ。雛は飛べない内から、水中を泳いだり歩くことができる。
オスは12月頃の繁殖期から「ピピピ チュシュ ピッピッ ピュュ」と鳴き始める[7]。セグロセキレイ似た濁った声で「チーチージュピチリリ」と複雑に鳴く[4]。地鳴きは「ピッ ピッ」[4]。
本種は以下の亜種に分類されている[2]。日本には亜種カワガラス(学名:Cinclus pallasii pallasii Temminck, 1820)が分布する[2][6]。
国際自然保護連合(IUCN)により、レッドリストの軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]。個体数は安定傾向にある[1]。
日本では以下の都道府県でレッドリストの指定を受けている[15]。河川開発が個体数の減少の原因であると見られている[16][17]。
若山牧水により『川鴉(かわがらす) なきすぎゆきぬ たぎつ瀬の たちき輝き流る上を』と詠まれている。