ニホンウナギ(日本鰻、学名:Anguilla japonica)は、ウナギ科ウナギ属のウナギの一種。日本・朝鮮半島からベトナムまで東アジアに広く分布する。河川生活期は色が黄ばんで見える事が「黄ウナギ」、海洋生活期は銀色に見える事から「銀ウナギ」(銀化ウナギ)と呼ばれる事がある[2]。
成魚は全長1 m、最大で1.3 mほどになる。細長い体形で、体の断面は円形である。眼は丸く、口は大きい。体表は粘膜に覆われぬるぬるしているが、皮下に小さな鱗を持つ[3]。腹鰭はなく、背鰭、尾鰭、臀鰭が繋がって体の後半部に位置している。体色は背中側が黒く、腹側は白いが、野生個体には背中側が青緑色や灰褐色、腹側が黄色の個体もいる。また、産卵のため降海し成魚は背中側が黒色、腹側が銀白色になる婚姻色を生じ、胸鰭が大きくなる。
成魚が生息するのは川の中流から下流、河口、湖などだが、内湾にも生息している。細長い体を隠すことができる砂の中や岩の割れ目などを好み、日中はそこに潜んでじっとしている。夜行性で、夜になると餌を求めて活発に動き出し、甲殻類や水生昆虫、カエル、小魚、ミミズなどいろいろな小動物を捕食する。えらの他に皮膚でも呼吸できるため、体と周囲が濡れてさえいれば陸上でも生きられる。雨の日には生息域を抜け出て他の離れた水場へ移動することもあり、路上に出現して人々を驚かせることもある。濡れていれば切り立った絶壁でも体をくねらせて這い登るため、「うなぎのぼり」という比喩の語源となっている。
海洋で産卵が行われ孵化した稚魚は汽水域から淡水の河川で成長する。湖沼河川で5年から12年程[2]度生活し性的な成熟が近づいた親魚は降海し産卵場所まで回遊する間に成熟する。一方、耳石に含まれる ストロンチウム の分析からヨーロッパウナギと同じように河川遡上を行わない「海ウナギ」や汽水と淡水を複数回行き来している「河口ウナギ」の存在が明かとなっている[4][5]。なお、日本近海で捕獲された産卵回遊中の親魚(銀ウナギ)の耳石分析の結果から、再生産に関与している個体の約85%に淡水遡上歴が記録されていなかったとする研究がある[6]。
卵から2-3日で孵化した仔魚はレプトケファルス(葉形幼生、Leptocephalus)と呼ばれ、成魚とは異なり柳の葉のような形をしている。この体型はまだ遊泳力のない仔魚が、海流に乗って移動するための浮遊適応であると考えられている。仔魚・稚魚期は主にマリンスノーを餌としていることが明かになり[7] [8]
レプトケファルスは成長して稚魚になる段階で変態を行い、扁平な体から円筒形の体へと形を変え150-500日後に「シラスウナギ」となる[9]。シラスウナギは体型こそ成魚に近くなっているが体はほぼ透明で、全長もまだ5 cmほどしかない。シラスウナギは黒潮に乗って生息域の東南アジア沿岸にたどり着き、川をさかのぼる。流れの激しいところは川岸に上陸し、水際を這ってさかのぼる。川で水棲昆虫・魚・甲殻類を捕食して成長し、5年から十数年ほどかけて成熟する。その後ウナギは川を下り、産卵場へと向かうが、その経路に関してはまだよく分かっていない。海に注ぐ河口付近に棲息するものは、淡水・汽水・海水に常時適応できるため、自由に行き来して生活するが、琵琶湖や猪苗代湖等の大型湖沼では、産卵期に降海するまで棲息湖沼と周辺の河川の淡水域のみで生活することが多い。また、近年の琵琶湖等、いくつかの湖沼では外洋へ注ぐ河川に堰が造られたり、大規模な河川改修によって外洋とを往来できなくなり、湖内のウナギが激減したため、稚魚の放流が行われている。
長らく正確な産卵場所は不明でフィリピン東方海域とされていた時期もあるが、外洋域の深海ということもあり長年にわたる謎であった。しかし、2006年2月、魚類学者の塚本勝巳らの研究チームが、ニホンウナギの産卵場所がグアム島やマリアナ諸島の西側沖のマリアナ海嶺のスルガ海山付近であることを突き止めた[5]。これは孵化後2日目の仔魚を多数採集することに成功し、その遺伝子を調べニホンウナギであることを確認したものである[10][11]これにより、「冬に産卵する」というかつての説は否定された。
2008年6月および8月には、水深が2,000m以上もある西マリアナ海嶺南部海域で水産庁と水産総合研究センターによる調査チームが成熟したニホンウナギおよびオオウナギの捕獲に世界で初めて成功した[10][12]。トロールの曳網水深は200-300mであった。雄には成熟した精巣が、雌には産卵後と推定される収縮した卵巣が認められた。また、水深100-150 mの範囲で、孵化後2-3日経過したと思われる仔魚(プレレプトケファルス)26匹も採集された。さらに、プレレプトケファルスが生息する層の水温が、26.5-28℃であることを初めて確認した[13][10]。同チームは2009年の調査においてさらに南方の海域で8個体(雌4、雄4)のニホンウナギと2個体(雌1、雄1)のオオウナギを捕獲した。トロールの曳網水深は150-300mであり、周辺には海山のような浅場はなかった[14]。これの結果から、海山上に生息しているわけではなく中層を遊泳しながら産卵をしていると考えられる[10]。
この推定を基に、塚本らの研究チームが周辺海域をさらに調査したところ、2009年5月22日未明、マリアナ海嶺の南端近くの水深約160メートル、水温が約26℃の海域で、直径約1.6 mmの受精卵とみられるものを発見。遺伝子解析の結果、天然卵31個を確認した[10]。天然卵の採集は世界初であると同時に、水深約200 mで産卵され、約30時間かけてこの深さまで上がりながら孵化することも判明した[15][16]。さらに同チームでは、2011年6月29日学術研究船白鳳丸に搭載したプランクトンネットを用いて、産卵直後から2日程度経過した147個の受精卵の採取に成功した。新月の2-4日程度前の日没から23時の間、水深150-180 mで産卵されたと推定される。
国際自然保護連合(IUCN)により、2014年から絶滅危惧種(EN)の指定を受けている[1]。
日本ではニホンウナギの個体数が、密漁で著しく減っているとして[18]、2013年2月1日に環境省のレッドリストで情報不足から絶滅危惧IB類へカテゴリー変更が行われた[19][20]。 2014年6月12日、国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを「絶滅する危険性が高い絶滅危惧種」に指定しレッドリストに掲載した[21][22][23][24]。
絶滅危惧IB類 (EN)(環境省レッドリスト)
また以下の都道府県により、レッドリストの指定を受けている[25]。2012年(平成24年)9月6日に長崎市で、日本、中華人民共和国、中華民国の3者間で「ニホンウナギの国際的資源保護・管理に係る非公式協議」が開催された[26]。
2017年3月31日には、生物種や資源としてのニホンウナギの保全に取り組むため、日本と台湾、韓国、中国の研究者ら約100人が参加する「東アジア鰻学会」の設立総会が開かれた[30]。
親魚のもつ卵および精子の成熟条件や仔魚・稚魚期の餌が解明されたことで、2010年には実験室レベルではあるが、完全養殖に成功した事が発表された[31]。
日本では蒲焼などとして大量に消費されている
ニホンウナギ(日本鰻、学名:Anguilla japonica)は、ウナギ科ウナギ属のウナギの一種。日本・朝鮮半島からベトナムまで東アジアに広く分布する。河川生活期は色が黄ばんで見える事が「黄ウナギ」、海洋生活期は銀色に見える事から「銀ウナギ」(銀化ウナギ)と呼ばれる事がある。