Cyclemys annandalii
Boulenger, 1903 Hieremys annandalii Smith, 1930
ヒジリガメ(学名:Heosemys annandalii)は、イシガメ科オオヤマガメ属に分類されるカメ。
カンボジア、タイ、ベトナム南部、ラオス南部[1][2][3][4]
マレーシア(マレー半島北部)に分布するとされることもあるが、人為的移入の可能性が高い[4]。
最大甲長50.6センチメートル[2](60センチメートル[1]や80センチメートル[3]に達するとする文献もあり[4])とオオヤマガメ属最大種[4]。オスよりもメスの方が大型になる。背甲はややドーム状に盛りあがり、上から見るとやや細長い[4]。項甲板は小型で、楔形や等脚台形[4]。椎甲板には破線状あるいは不明瞭な、あまり発達しない筋状の盛り上がり(キール)がある[3][4]。第1椎甲板は中央部より前部で最も幅広く縦幅と横幅の長さはほぼ等しい[4]。第2-5椎甲板は縦幅よりも横幅の方が長い[4]。後部縁甲板の外縁が鋸状に弱く尖る[4]。背甲の色彩は黒や暗褐色[2][3][4]。喉甲板はやや突出し、左右の喉甲板の間には浅い切れ込みが入る[4]。背甲と腹甲の継ぎ目(橋)や腹甲色彩は淡黄色で、甲板ごとに黒や暗褐色の斑紋が入るが斑紋が繋がる個体や腹甲全体が暗色になる個体もいる[4]。
頭部は中型[4]。吻端はやや突出する[4]。顎の咬合面は幅広く一部に畝があり、顎を覆う角質(嘴)の外縁は鋸状に尖る[4]。頭部の色彩は暗褐色で、黄色や淡黄色の斑点や筋模様が入る[2]。指趾の間には水かきが発達する[4]。
卵は長径5.7-6.2センチメートルの楕円形[4]。孵化直後の幼体は甲長6センチメートル[2][4]。幼体は背甲がやや扁平で、キールや後部縁甲板の突起が明瞭[4]。さらに頭部の斑紋もより明瞭。成長に伴い甲高が高くなり、キールや縁甲板の突起、斑紋も不明瞭になる[4]。
オスは腹甲の中央部が凹む[4]。また尾が太くて長く、尾をまっすぐに伸ばした状態では総排出口全体が背甲の外側にある[4]。メスは腹甲の中央部が凹まないかわずかに膨らむ[4]。また尾が細くて短く、尾をまっすぐに伸ばしても総排泄口の大部分が背甲よりも内側にある[4]。
形態がオオヤマガメ属に類似するが、咬合面が幅広く嘴が鋸状に尖る、水生傾向が強いことから、以前は本種のみでヒジリガメ属Hieremysを構成すると考えられていた[4]。しかし分子系統学的解析からオオヤマガメ属に含める説が有力[4]。
平地にある流れの緩やかな河川、池沼、ため池、湿原、氾濫原の水たまりなどに生息し[1][3]、水辺に植物が繁茂し日光浴ができる環境を好む[2][4]。河口の周辺(チャオプラヤー川)や三角州(メコンデルタ)にも生息し、汽水域で見られることもある[2][4]。半水棲で、産卵以外で水場を離れることはまれ[2][4]。
食性は植物食で[3]、植物の葉、茎、果実などを食べる[1][2][4]。主に水中で採食を行う[4]。
繁殖形態は卵生。タイの個体群で12-翌1月に1回に4個の卵を産んだ例がある[4]。
仏教寺院では池に放されて飼育(放生)されることが多く、英名(temple=寺院)の由来になっている[2][4]。旧属名Hieremysは「聖なるカメ」の意で、同じく寺院でよく飼育されていることに由来し和名(ヒジリ=聖)と同義[1][4]。
生息地や中華人民共和国では食用や薬用とされることがある[4]。
開発による生息地の破壊、水質汚染、食用や薬用、放生用の乱獲などにより生息数が減少している[2][4]。2003年にワシントン条約附属書IIに掲載された[4]。タイでは法的に商業目的の輸出が禁止されている[4]。
ペット用に飼育されることもあり、日本にも輸入されている。生息数の減少やワシントン条約掲載などにより、流通量は減少している[4]。主に野生個体が流通する[4]。アクアリウムで飼育される。大型種で活発に動くため、可能な限り大型のケージを用意する[1][4]。熱帯域に分布するため低温に弱く、冬季は保温する[1][4]。陸場を設け、局所的な熱源を照射し体を乾かせる環境を設置する[1][4]。飼育下では動物質も食べ、配合飼料などにも餌付く[4]。幼体から植物質を与えずに人工飼料も含めたカルシウムが少ない動物質が多い餌のみを与え続けると、骨の成長不良などを引き起こす可能性がある[4]。