顎脚綱(がっきゃくこう、Class Maxillopoda )は、甲殻類に含まれる動物群の名。非常に多様な動物を含み、共通な特徴をあげるのが難しい。全く異なる姿を取るものも多い。
顎脚綱は、新しく認められるようになった分類群である。これに含まれる群には、ごく小規模ものもいくつもあるが、特に多くの種を含むものとして、カイアシ類や蔓脚類(フジツボやカメノテなど)がある。後者はそもそも甲殻類であることすら認め難く、前者についても寄生性で大きく姿を変えたものも多く含まれる。そのため、これらをまとめて一つの群とするような考えは長く出なかった。しかし、化石節足動物やカシラエビ類の発見など、甲殻類の原始的な段階の系統について多くのことが知られるにつれ、これらをつなぎあわせる考えが生まれ、そこから提案されたのがこの群の存在である。これは次第に広く承認され、綱に昇格する扱いもなされるが、分子系統学的には側系統であるとの指摘もある。
この類は歴史的にも古いものの一つと思われ、カイアシ類の化石は古生代カンブリア紀後期から知られている。これは鰓脚綱と並んで古いものである。甲殻類の中で最も原始的なものとの考えもある。
上記のように変形の著しいものも多く、個々に適合させるのは難しいが、基本的な体の構造として以下のようなものが想定されている。
体は頭部・胸部・腹部に分かれる。頭部は五節を含み、口の前に二対の触角と口の後ろに一対の大顎、二対の小顎を持つ。第1触角は単枝、第2触角は二叉型。胸部は七節からなり、各節に一対の付属肢がある。第一節のそれは顎脚となり、往々にしてこの体節は頭部と融合して頭胸部を形成する。それぞれの付属肢は二叉型で、最後尾は生殖関連の機能に特化して変形する例が多い。腹部は三節まで、付属肢はなく、最後端は肛門節で枝状肢が一対ある。
ただしこのような基本構成が確認できるのは一部の群に過ぎない。ほぼ完全に確認できるのはカイアシ類である。ヒゲエビ亜綱ではより胸部が退化した形で、鰓尾亜綱ではさらに腹部も退化した形で見られる。
鞘甲亜綱では固着性と寄生性への適応から頭部と胸部が大幅に単純化している。ヒメヤドリエビ亜綱の場合、発生の過程が異なるため雄と雌では構造が異なる。鞘甲亜綱ではキプリス幼生、ヒメヤドリエビ亜綱ではタンツルス幼生がこの類の基本形態により近い構造をもつ。貝虫亜綱では自由生活ながら胸部と腹部が癒合、付属肢が失われていると考えられる。
なお、舌虫類の場合、様々な特徴で甲殻類との類縁が考えられたものの、親にもその幼生にも甲殻類どころか節足動物であると確実に判断できる特徴がなく、分子遺伝学的情報が鰓尾類との類縁性を強く示唆したことがここに分類された理由となっている。
一般的に雌雄異体で、体内受精を行う。単為生殖は貝虫類とヒメヤドリエビ類に知られるのみ。幼生はノープリウスかメタノープリウスで生まれるものが多い。成長に連れて体節を増し、若干の変態が見られるものが多い。
前記のようにこの群に含まれる動物群は極めて多様であり、また形態の変形が著しいものが多いため、それらをまとめた群を考えることは難しかった。甲殻類全体としては軟甲類が比較的よくまとまった群と見られるほかは、上位分類が難解になっていた。
これに対して、Dahlは1960年代に化石甲殻類やカシラエビ類の研究などから甲殻類の自然分類に関する新しい体系を提示した。彼はそれまで認められていた中で軟甲類と貝虫類をそのままに、残りの群について新たに二つの上位分類群を置くことを提案した。一つは顎甲亜綱 Gnathostraca であり、これには現在の鰓脚亜綱とカシラエビ類を含めた。もう一つが顎脚亜綱であり、その時点では鰓尾類、カイアシ類、蔓脚類、ヒゲエビ類を含めた。
これによって甲殻類全体を見渡した分類体系についてさらに議論が行われるようになり、その後の新たな群の発見や、遺伝情報による新知見などもそれを支持することで、現在のような扱いとなるに至っている。この類は、鰓脚類やカシラエビ類の頭部+同規的な胸部+付属肢のない腹部という体制と、軟甲類に見られる頭部+顎脚の分化した胸部+付属肢のある腹部というそれの、言わば橋渡しをするようなものでもある。
ただし、どの範囲までをここに含めるかに関しては議論がある。貝虫類を含めるかについては、この類が単系統であるかどうかも含めて議論がある。また、鞘甲亜綱の異質性についての指摘もある。
ここに含まれるのは、非常に多様なもので、甲殻類中で最も多様性の幅が広いとさえ言われる。多くは海産だが、鰓尾類やカイアシ類には淡水産も多く含まれ、後者には少数ながら陸産種がある。
顎脚綱(がっきゃくこう、Class Maxillopoda )は、甲殻類に含まれる動物群の名。非常に多様な動物を含み、共通な特徴をあげるのが難しい。全く異なる姿を取るものも多い。