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ツノゴケ類(-るい、学名:Anthocerotophyta、英語: Hornwort)は、コケ植物の一群で、蘚類、苔類とともにコケ植物を構成する。現在知られる種数(約400種)は蘚類、苔類よりはるかに少ない。コケ植物は側系統群とする考えが有力であるが、ツノゴケ類の系統的位置は確定していない。
配偶体は外見上苔類のゼニゴケ類に類似した葉状体。胞子体は角状の形を特徴とし、和名のツノゴケ(角苔)や英名の Hornwort はこれによる。ただし、形態の類似は外見的なもので、苔類の葉状体が内部に複雑な構造を持ち、往々に裏面に鱗片を有するなど、それなりに複雑なのにくらべ、諸事、はるかに単純である。裏面の仮根は単細胞性。
葉状体の細胞には葉緑体が1個だけある。特に多くの種ではこれに明確なピレノイドを持つのが特徴である。これは藻類に多く見られる特徴であり、陸上植物(種子植物・シダ植物・コケ植物)の中で、これを持つのは、ツノゴケ類のみである。
多くのツノゴケ類の葉状体は内部に空洞を持ち、ここにネンジュモなどの藍藻が共生するため、青緑色を呈する。
胞子体は先端ではなく中央部の分裂組織で成長し続ける。胞子体に明確な分裂組織を持つのは、コケ植物の中で、これだけである。多くのツノゴケ類では胞子体には気孔がある。 さく(胞子嚢)は、名の通りに、根元から先端に向け、なめらかに細くなった柱状で、先端が細まる。ただし、ごく短くて、角には見えないものもある。蘚類や苔類のように、外見的に胞子嚢と胞子嚢柄が明確に区別できない。胞子の成熟後には、外壁が縦に二つに裂ける。内部の中心には細い柱状の柱軸がある。胞子嚢内には、胞子と弾糸が混在する
基本的に他のコケ植物と同じく単相の配偶体と複相の胞子体が世代交代する。多くの種では胞子は1細胞からなり、発芽してから細胞分裂し原糸体を形成する。しかし一部の種では胞子内で細胞分裂する。原糸体はさほど発達せず、単一の葉状体を形成する。
十分に生長すると内部に生殖器(造卵器と造精器)を形成する。多くの種は雌雄同体であるが、雌雄異体の場合もある。生殖器は大きくなると葉状体表面に露出し、造精器から泳ぎ出た精子が卵と受精する。受精により接合子が生じ、これが細胞分裂して胞子体を形成する。胞子体は基部で配偶体に寄生して生長する。胞子体先端部に胞子嚢ができ胞子を作る。
コケ植物とシダ植物は、いずれも陸上植物の中では原始的なものであるが、その関係には諸説ある。その一つに、ツノゴケ類がシダ植物の祖先に近いとの説があった。シダ植物では、本体が胞子体、コケ植物では、本体は配偶体で、全く異なって見えるが、配偶体の上で受精が行われ、その上で発芽が起きて、配偶体から胞子体が伸び出す、という点では共通している。ここで、コケ植物では胞子体は胞子嚢にしかならないのだが、ツノゴケ類では、ここに分裂組織や気孔など、維管束植物の胞子体に共通する構造がある。したがって、それがさらに成長発展を遂げたのがシダ類になった、というのである[1]。
かつては、外見的な類似から苔類に含めたが、現在は、独立した綱として扱うのが普通。岩月・水谷(1972)では、ツノゴケ綱にはツノゴケ目のみが含まれていたが[2]、分子系統学的な研究や、微細構造などの形態的特徴から、以下のような分類体系が提唱されている[3]。なおレイオスポロケロス目(1科1属1種)は、独立のレイオスポロケロス綱として扱われることもある。
ツノゴケ綱
レイオスポロケロス目 Leiosporocerotalesツノゴケ目 Anthocerotales
ツノゴケモドキ目 Notothyladales
フィマトケロス目 Phymatocerotales
キノボリツノゴケ目 Dendrocerotales
Folioceros 属
Sphaerosporoceros 属
Nothoceros 属