Boreotheria
上目北方真獣類(ほっぽうしんじゅうるい、Boreoeutheria)または北方獣類 (Boreotheria)は、真獣類有胎盤類のクレードの1つ。ローラシア獣類と真主齧類からなる上位のクレードである。単に英語読みでボレオユーテリアとも言う。
このクレードは現在、DNA配列の解析に加え、レトロトランスポゾンの有無のデータによっても、よく支持されている。
北方真獣類は、互いに姉妹群であると考えられる2つの大クレード、すなわち、モグラ・クジラ・ウシ・ウマ・コウモリ・ネコなどの仲間を含むローラシア獣類と、ネズミ・ウサギ・サルなどの仲間を含む真主齧類(=超霊長類)とをまとめたクレードである。
ミトコンドリアDNAおよび核ゲノムのシークエンス解析を用いた分子遺伝学的なアプローチにより、現生するすべての真獣類は、系統的に以下の4つの大グループにまとめられることが明らかになっている[1]。
これらのグループ分けそのものの妥当性には、ほとんど疑問の余地がないが、一方、この4つのグループが進化の過程で分岐していった順序については、さまざまな説が提出されており、まだ定説といえるものがないのが現状である。
しかし、その中で唯一、真主齧類とローラシア獣類の2つのクレードは、研究初期から、比較的高い近縁性を示していた。これらが姉妹群であることは、現在ほぼ確実視されており、この両者をまとめた北方真獣類(ボレオユーテリア)が単系統であることは、広く受け入れられている。
よって、各グループの系統関係を論じる上で実際に問題となるのは、その起源においてアフリカ大陸に深い関係があると見られるアフリカ獣類、南アメリカ大陸にほぼ固有である異節類(異節目(アリクイ目)に相当)、そして北方真獣類の3グループの分岐の順序、すなわち、三者のうちのいずれが最初に他の二者の共通の祖先から分岐したのか、ということになる。 この点に関して、現在、以下の3つの仮説が鼎立している。
一方、東工大大学院の岡田典弘教授らのグループが、LINE配列の解析を行った結果、祖先多型[2]が存在し、その状態が解消される前に3つの系統は、ほぼ同時期に、急速に分岐したという学説を提唱している。
北方真獣類の位置づけは、一般に「下綱」に位置づけられることが多い真獣類の下位であり、また、同じく「上目」とされる真主齧類・ローラシア獣類の上位ということになる。しかし、もともと分子遺伝学・分子系統学的アプローチによって設定されたこれらのクレードは、90年代から盛んになってきた分岐学的な考え方を前提とする構成概念であり、それゆえに、タクソンの序列によって階層的に生物群を理解しようとする従来のリンネ式の分類体系とは、やや折り合いが悪い。それは、分岐学(分岐分類学)においては、進化上の分岐点が1つ解明されれば、そのつど必然的に1つのクレードが新たに生まれることになり、これに応じて、系統上その近隣に位置するクレードも、タクソンとしての階級が上下することになるため、タクソンの階級的な位置づけは、もはや恒常的なものではなくなるからである。哺乳類の例では、かつての鰭脚目や鯨目は「目」の階級から転落し、有蹄目や食虫目は、タクソンそのものが消滅した。