スギ(杉、Cryptomeria japonica)は、ヒノキ科スギ亜科スギ属の常緑針葉樹である(以前はスギ科 Taxodiaceae に分類されていた[2])。
本種は単型であり、本種のみでスギ属 (Cryptomeria属) を形成する。
スギ科(ヒノキ科スギ亜科とすることも多い)は、中生代に登場した起源の古い植物群で、現在は日本のスギの他、アメリカ大陸のセコイア Sequoia sempervirens、中国のメタセコイア Metasequoia glyptostroboides、コウヨウザン Cunninghamia lanceolata などが遺存的に分布している。
スギには多くの地域品種がある。日本では天竜杉、屋久杉、立山杉、吉野杉、北山杉、秋田杉、山武杉などが有名である。
日本固有種。本州北端から屋久島まで自生する。また北海道各地にも広く造林されている。沢沿いなど比較的水分と栄養分に富む環境を好む傾向があり、植林の際にも谷間はスギ、中腹はヒノキやサワラ、尾根筋はマツと植え分けられる。
第二次世界大戦以前には台湾と朝鮮半島で植林されていたが、戦後はアゾレス諸島、レユニオン島、インド、ネパールで植林が続けられており、主に木材や防風林として利用されている[3][4]。
葉は基部が枝に密着して、先は針状に尖り、枝全体としては一面に上向きの針を並べたようになる。樹皮は褐色で、成長した幹の樹皮は縦に裂け、帯状に剥げ易い。この生態を利用した皮むき間伐は、表皮を剥がすことで樹木中の水分を抜いて1年ほどで枯れさせる山林整備の手法である。
樹形はふつう細長く直立し、高さ50 mに達するものもあるが、生育条件などによっては幹が太くなる。屋久島の縄文杉は樹高25.3 m、胸高周囲16.4 mに達し、推定樹齢は2000年代~7200年とされている[5]。 また大王杉は樹高24.7 m、胸高周囲11.1 m、推定樹齢3000年とされている[5]。
花は雄花と雌花があり、2月から4月に開花する。雄花は長さ5 mmくらいの楕円形で、枝先に密生する。雌花はほぼ球形で、鱗片が密着し、表面に小さな棘が出る。スギは風媒花で多量の花粉を飛ばすため、開花期には花粉症の原因となる。
深根性であり、根を深くまで伸ばす[6]。根系直径10mmの引き抜き抵抗力は、スギ、ヒノキと広葉樹(ナラ類)は100kgf程度、アカマツはその半分、カラマツは4割程度であり、スギは土砂災害に強い森林づくりに好ましい[7]。しかし、植林するスギやヒノキの苗は挿し木によるクローン栽培が多く、挿し木は地中深くに伸びる直根が出てこないため(種から生産する実床苗には直根がある)、台風や大雨などによって簡単に倒れやすい[要出典]。
人工林においては過密に植えられた後、十分な間伐をせずに放置されたものも多い。理由としては商業用の需要の低下や材木としての搬出が困難な場合等による価値の低下によるコストの増加等が上げられる。この場合、密に広がった樹冠で光が遮られ、林床にはほとんどの植物が生存できなくなる。このような森林は遠目には緑に覆われているものの、実態は生物多様性に乏しいことから「緑の砂漠」などと呼ばれたりする。密に植えられているため他の樹種が容易に侵入できず、そのままの状態となりやすい(ただし竹は侵入する)。
スギは菌類と菌根を形成する[要出典]。スギの菌根はアーバスキュラー菌根と呼ばれるもので、おもに草本と菌類の関係として知られており、樹木と菌類の菌根の形としては珍しいものである。
スギ林に生えるキノコは雑木林やマツ林に比べて少ない。スギヒラタケ Pleurocybella porrigensは本種の切り株や倒木に生えてそれらを分解する。 サーコスポラ菌 Cercospora sequoiae は苗木の赤枯病を引き起こす。この菌は成長した造林木にも感染し、その場合は溝腐病を引き起こす。溝腐病は致命的ではないものの、病変部に著しい変形をもたらすために、木材としての価値を著しく落とす。Cercospora sequoiaeが関与しない溝腐病も報告されており、非赤枯性溝腐病と呼ばれる。原因菌はPhellinus punctatusであり、千葉県特産の山武杉が特に感受性の強いことで知られている[要出典]。
主に住宅の柱材として利用されるほか構造用合板としてや集成材としても利用される。
割裂性がよく、薪割りのように割ることによって、角材から板材までを作ることができる。従って、古来から重要な木材として重宝され、曲物などで使用されてきた。特有の芳香を有し、杉樽に貯蔵することによって日本酒に香りをつけたりすることもあるが、半面でその香りを嫌う用途、例えば飯櫃などには不向きである。
スギには多くの地域品種があり、材質も品種、系統により異なる。建築材料として使用する際の強度の指標となるヤング率の変異幅もカラマツ、ヒノキ等に比較して非常に大きい[要出典]。またヤング率は品種だけではなく樹齢によっても変化する。
建築用材として使用する際には伐採して製材後に乾燥する必要があるが、心持ち角材の乾燥時に問題となる心材の含水率もヒノキ等と比較して高く、変異幅も大きい[8]。低含水率材は約50パーセントのものもあるが高含水率材では200パーセントに達するものもある[9]。このことはスギの利用上の問題のひとつとなっている。
樹皮は外壁や屋根(杉皮葺)に利用し、葉は乾燥して線香に用いる。
また、子供のおもちゃとして、スギの雄花の未熟なものを弾にして、ごく細い竹で作る杉玉鉄砲というものがある。細い竹の管と、竹籤に柄をつけたものを用意し、まず管に雄花を詰め、竹籤で押し込む。そのあとにもう一つの雄花を詰め、竹籤で押し込めば、空気圧によって前の雄花が破裂音とともに飛び出すものである。
スギの名の由来は、真直ぐの木「直木」から来ていると言われる(大和本草)。本居宣長は古事記伝神代七之巻にて、スギは傍らにはびこらず上へ進み上る木として「進木(ススギ)」が語源としており、「直木(スグキ)」は誤りであるとしている。
欧米言語の翻訳文章では、しばしば Cedar類をスギと訳すのが慣例となっている。和名にもレバノンスギ (Cedrus libani)、ヒマラヤスギ (Cedrus deodara)といったように「スギ」の名が当てられている(シダー参照)。しかし、Cedar類はスギのようにまっすぐ成長するもののマツ科 (Pinaceae科)であり、本種とは縁が遠い。
漢字の「杉」は、日本ではスギのことを指すが、中国ではコウヨウザンのことを指す。中国では日本の杉の仲間を「柳杉」と呼ぶ。他にも「椙」の字の表記がある。「椙」はいわゆる国字であり、日本でしか通じない。