カワウソ(獺、川獺)は、食肉目イタチ科カワウソ亜科(カワウソ亜科、Lutrinae)に分類される構成種の総称。
最小種はコツメカワウソで体長41 - 64センチメートル、尾長25 - 35センチメートル[2]。皮下脂肪の層はほとんどないが、下毛が密生することで空気がたまり保温する役割を果たしている[3]。
四肢は短く、指趾の間に水かきのある種が多い[2]。鉤状に発達した爪のある種が多い[2]。
泳ぎが得意で、水中での生活に適応している。また、ラッコ以外のカワウソは陸上でも自由に行動している。南極、オーストラリア、ニュージーランドを除く、世界全域の水辺や海上で生息している。
水かきをもった四肢は短く、胴体は細長い。このような体型は水の抵抗が少なく、敏捷な泳ぎを可能にしている。体は密生した下毛と固くて長い剛毛に覆われており、これらの体毛が水をはじくことにより、水中で体温が奪われることを防いでいる。頭の上部は扁平で、耳、目、鼻が同一線上に並んでいるため、水に潜りながらこれらの感覚器を水面上に同時に出し、外界の様子を窺うことができる。また、水中では耳孔や鼻孔を閉じることができる。
肉食性であり、ザリガニ、カエル、魚などを捕まえて食べる。小臼歯が良く発達しているため、骨まで砕いて食べてしまう。バングラデシュなど東南アジアの国では飼いならしたカワウソで魚を網に追い込ませて獲る伝統漁法があるが、2000年代に入っては継承者が減りつつあり一般的ではない[4]。
オオカワウソPteronura brasiliensis
カナダカワウソLontra canadensis
ミナミウミカワウソLontra felina
オナガカワウソLontra longicaudis
ラッコEnhydra lutris
ノドブチカワウソHydrictis maculicollis
ユーラシアカワウソLutra lutra
スマトラカワウソLutra sumatrana
ツメナシカワウソAonyx capensis
コツメカワウソAonyx cinerea
ビロードカワウソLutrogale perspicillata
2008年に発表されたイタチ科の核DNAやミトコンドリアDNAの最大節約法・最尤法・ベイズ法による分子系統推定でも、本亜科の単系統群であることが支持されている[5]。一方で亜科内の系統関係で不明瞭な点もあり最大節約法ではノドブチカワウソがラッコと姉妹群という解析結果が得られたのに対して、最尤法では旧世界のカワウソ類+ラッコの中ではノドブチカワウソが最も初期に分岐したという解析結果が得られている[5]。この解析では本亜科はイタチ属とアメリカミンクが分類されるNeovison属からなる狭義のイタチ亜科の姉妹群という解析結果が得られている[5]。
以下のニホンカワウソを除く分類・英名はMSW3 (Wozencraft, 2005) に、和名は今泉・マクドナルド(1986)・斉藤ら(1991)・本川ら(2013)に従う[1][2][3][6]。MSW3 (Wozencraft, 2005) ではニホンカワウソを独立種Lutra nipponとしているが[1]、過去の分布をwidely distributed in Japanとしており北海道を含めた日本広域とみなしている可能性がある[7]。ニホンカワウソの記載論文を含むMSW3の出典では北海道産はL. nipponとされたことはなく、他の日本産食肉類でも北海道の分布に誤りや見落としがあることからユーラシアカワウソの分布域から北海道が見落とされた可能性が指摘されている[7]。
ラッコを除いて水中でも陸上でも活動する[2]。社会構造は種によって異なり単独で生活する種もいれば、オオカワウソやコツメカワウソ・ビロードカワウソのように家族群を形成して生活する種もいる[2]。
主に魚類、甲殻類、カエルなどを食べる[2]。
ニホンカワウソ(日本本土亜種 Lutra lutra nippon と北海道亜種 Lutra lutra whiteleyi )は、それぞれユーラシアカワウソ Lutra lutra の亜種(独立した種とする考え方もある[9][10])である[11][12]。かつては北海道から九州まで、日本中に広く生息していたが、乱獲や開発による生息環境の変化で激減[13]。1974年7月に高知県須崎市で捕らえられ、1975年4月に愛媛県宇和島市九島で保護されたのが最後の事例。1975年3月5日に高知県佐賀町(現・黒潮町)の国道56号で自動車に跳ねられた死体を回収した。そして1979年夏の目撃例が人間に目撃された最後の例となっていた。2012年8月、環境省のレッドリスト改訂で正式に絶滅が宣言された[14]。なお愛媛県は2014年10月に更新した「愛媛県レッドデータブック2014」で、絶滅していないことを前提とする「絶滅危惧種」に引き続き指定している[15]。
2017年(平成29年)2月にはカワウソの姿が対馬に設置された琉球大学のカメラにとらえられ、同年8月に発表された。日本国内で1979年(昭和54年)に高知県で最後にニホンカワウソが目撃されてから38年ぶりとなる[16]。環境省による調査の結果、糞から検出したDNAから対馬に生息するカワウソは韓国とサハリンのユーラシアカワウソに近縁であることが発表された[17]。
日本や中国の伝承では、キツネやタヌキ同様に人を化かすとされていた。石川県能都地方で、20歳くらいの美女や碁盤縞の着物姿の子供に化け、誰かと声をかけられると、人間なら「オラヤ」と答えるところを「アラヤ」と答え、どこの者か尋ねられると「カワイ」などと意味不明な答を返すといったものから[18][19]、加賀(現・石川県)で、城の堀に住むカワウソが女に化けて、寄って来た男を食い殺したような恐ろしい話もある[20]。
江戸時代には、『裏見寒話[21]』『太平百物語』『四不語録』などの怪談、随筆、物語でもカワウソの怪異が語られており、前述のように美女に化けたカワウソが男を殺す話がある[19]。
広島県安佐郡沼田町(現・広島市)の伝説では「伴(とも)のカワウソ」「阿戸(あと)のカワウソ」といって、カワウソが坊主に化けて通行人のもとに現れ、相手が近づいたり上を見上げたりすると、どんどん背が伸びて見上げるような大坊主になったという[22]。
青森県津軽地方では人間に憑くものともいわれ、カワウソに憑かれた者は精魂が抜けたようで元気がなくなるといわれた[23]。また、生首に化けて川の漁の網にかかって化かすともいわれた[23]。
石川県鹿島郡や羽咋郡ではかぶそまたはかわその名で妖怪視され、夜道を歩く人の提灯の火を消したり、人間の言葉を話したり、18歳-19歳の美女に化けて人をたぶらかしたり、人を化かして石や木の根と相撲をとらせたりといった悪戯をしたという[19]。人の言葉も話し、道行く人を呼び止めることもあったという[24]。
石川や高知県などでは河童の一種ともいわれ、カワウソと相撲をとったなどの話が伝わっている[19]。北陸地方、紀州、四国などではカワウソ自体が河童の一種として妖怪視された[25]。室町時代の国語辞典『下学集』には、河童について最古のものと見られる記述があり、「獺(かわうそ)老いて河童(かはらふ)に成る」と述べられている[26]。
アイヌの昔話では、ウラシベツ(北海道網走市浦士別)で、カワウソの魔物が人間に化け、美しい娘のいる家に現れ、その娘を殺して魂を奪って妻にしようとする話がある[27]。
中国では、日本同様に美女に化けるカワウソの話が『捜神記』『甄異志』などの古書にある[21]。
朝鮮半島にはカワウソとの異類婚姻譚が伝わっている。李座首(イ・ザス)という土豪には娘がいたが、未婚のまま妊娠したので李座首が娘を問い詰めると、毎晩四つ足の動物が通ってくるという。そこで娘に絹の糸玉を渡し、獣の足に結びつけるよう命じた。翌朝糸を辿ってみると糸は池の中に向かっている。そこで村人に池の水を汲出させると糸はカワウソの足に結びついていたのでそれを殺した。やがて娘が生んだ子供は黄色(または赤)い髪の男の子で武勇と泳ぎに優れ、3人の子をもうけたが末の子が後の清朝太祖ヌルハチである。
ベトナムにもカワウソとの異類婚姻譚が伝わっている。丁朝を建てた丁部領(ディン・ボ・リン)は、母親が水浴びをしているときにかわうそと交わって出来た子であり、父の丁公著はそれを知らずに育てたという伝承がある[28]。