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チドリ科」を、その他の浜千鳥については「
浜千鳥」をご覧ください。
ハマチドリ
分類 界 :
動物界
Animalia 門 :
軟体動物門
Mollusca 亜門 :
貝殻亜門 Conchifera 綱 :
二枚貝綱 Bivalvia 亜綱 :
異歯亜綱 Heterodonta 目 :
ザルガイ目 Cardiida 上科 :
ニッコウガイ上科 Tellinoidea 科 :
アサジガイ科 Semelidae 属 :
Ervilia Turton, 1822 種 :
ハマチドリ E. bisculpta 学名 Ervilia bisculpta Gould, 1861[1] ハマチドリ(浜千鳥)、学名 Ervilia bisculpta はアサジガイ科 [2](もしくはチドリマスオ科 [3])に分類される海産の二枚貝の一種。殻長5-7mm前後の小型種で、インド太平洋の暖流域の浅海砂底に生息する。
属名 Ervilia はある種のソラマメ類のことで、豆のような殻形から。種小名 bisculpta はラテン語でbi(2、二つの)+ sculpta(彫刻された…、彫刻のある…)の意。
別名ハマチドリガイ。
インド太平洋:
- 日本(下北半島以南[4])、ハワイ、オーストラリア、インド洋にかけての広い暖流域[5]。
- ※Ervilia scaliola Issel, 1869 をハマチドリと同種と考える場合は紅海と地中海(移入)も分布域となる。
- 大きさと形
- 殻長7mm、殻高4mm、殻幅3mm程度で、アサジガイ科に分類される種としては小型。比較的厚質で大きさの割りには丈夫である。丸味を帯びた低三角形で、前後端は多少尖り気味となり、前端に比し後端がやや伸びるものが多い。殻頂は後方を向くが、殻頂の位置は個体変異があり、殻頂がほぼ中央にあって二等辺三角形に近いものから、殻頂が前方寄り、あるいは後方寄り[6]のものまである。殻はやや膨らむ。
- 彫刻
- 殻表には成長線があり、これに加えて前後の背域には明瞭な放射状の彫刻がある。彫刻部も含めて全体に滑らかな感じがあり、弱い光沢がある。後背域の放射刻は明瞭で成長線と交わって弱い布目状を呈することが多いが、前背域の放射刻はやや弱く範囲も狭いため、後背域の彫刻に比し目立たないことが多い。しかし両背域の放射刻の強さや範囲には変異がある。殻の中央部にはやや規則的で明瞭な密接する成長線があるが、放射刻はほとんどないか、あるいは全くない。
- 殻色
- 白や淡褐色の地にぼやけた褐色や紫褐色の放射斑をもつものが多いが、黄白色で殻頂付近のみが紫紅色になるものなど個体変異に富む。殻頂付近には不透明白色の霜降り斑が出ることもある。また、後半部に殻頂から腹縁に伸びる淡色の放射彩を現すこともある。これは腹縁の十字筋(十文字筋)付着点が周囲よりも淡色となることがあり、その痕跡が成長とともに連続するためである。このような十字筋の筋痕由来の淡色放射彩はニッコウガイ上科の貝類にしばしば見られる形質である。
- 内面
- 鉸歯はやや頑丈で、中央に三角形の弾帯(内靭帯)がある。外靭帯は殻頂後方にあるが小さく不明瞭。
- 右殻:弾帯の前方に弾帯と同大の1主歯があり、弾帯の後方には弱い歯槽(左殻の歯を受ける凹み)があり、さらにその後方には後背縁に沿って弱く細長い後則歯がある。
- 左殻:弾帯の前方には薄い主歯を挟んで三角形の深い歯槽(右殻の主歯を受ける凹み)があり、その前方と弾帯の後方に主歯がある(別の言い方をするなら、前後の主歯の間に弾帯と歯槽が挟まれているとも表現できる)。左殻の後則歯は不明瞭で、左殻の後背縁そのものが右殻の後則歯の上の溝に嵌るようになっている。
- 套線湾入(水管筋の付着痕)は横位のU字型で大きく、湾入の下辺をなす套線は上方にやや湾曲する。
- 殻の内縁は刻まれない[6]。
- 軟体
- 淡色でこれと言った彩色はない。足、鰓、水管とも発達する。外套膜縁には細かく短い触手が多数あり、水管口も触手で囲まれる。腹縁後方1/3付近に左右の殻をX字状に繋ぐ明瞭な十字筋があり、ニッコウガイ上科の貝類と共通の特徴を示す。
潮間帯から水深20mまでの砂底に生息する[6][3]。
原記載[編集]
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Ervilia bisculpta (ハマチドリ)の原記載とタイプ標本
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Ervilia bisculpta Gould, 1861. Proc. Boston Soc. Nat. Hist. vol.8, p.28
- タイプ産地: 「Kagosima, in sand, 5 ath.」(鹿児島、砂中、水深 5ファゾム = 9.144m)
- タイプ標本:
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Ervilia livida (ハマチドリの異名)の原記載とタイプ標本
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Ervilia livida Gould, 1861. Proc. Boston Soc. Nat. Hist. vol.8, p.28. (上記 Ervilia bisculpta と同ページ)
- タイプ産地: 「Kagosima Bay, in sand, 5 fath.」(鹿児島湾、砂中、水深 5ファゾム = 9.144m)
- タイプ標本:
- 異名[2]
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Ervilia ambla Dall, Bartsch & Rehder, 1938
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Ervilia australis Angas, 1877
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Ervilia japonica A. Adams, 1862
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Ervilia livida Gould, 1861
ハマチドリのグループ(Ervilia 属)は、20世紀後期までは殻の外見上の類似からバカガイ上科のチドリマスオ科に分類されてきた。しかし腹縁後半に両殻をX字型に繋ぐ十字筋があるなどニッコウガイ上科の特徴をもち、さらに弾帯(内靭帯)が主歯間に陥入することなどから同上科のアサジガイ科に分類すべきとの見解が1990年に出され[7]、それ以降はアサジガイ科に分類されることが多い[5][2]。しかし日本の代表的な貝類図鑑である『日本近海産貝類図鑑 第二版』(2017年出版)ではチドリマスオ科に分類しており[3]、異なる見解を示している。
原記載時から Ervilia に分類されている。日本などでは Spondervilia Iredale, 1930 という属に分類された例があるが[8]、この属は Ervilia の異名とされている[2]。
Encyclopedia of Life 402716
WoRMS 216457 BOLD Systems: 276865.
本種とされるものには殻形、色彩、彫刻にさまざな変異があり、それらを種内変異と見るか別種と見るかで見解が分かれ、分類が難しい。ハマチドリを新種として記載したGouldは、ほぼ同じ「鹿児島の水深5fmsの砂底」と「鹿児島湾の水深5fmsの砂底」から Ervilia bisculpta (ハマチドリ)と Ervilia livida (ハマチドリの異名とされる)の"2種"を新種として記載した。しかし、これら"2種"のタイプ標本を比較した波部忠重(1960)[9]は、「天草富岡で採集した個体にもこの位の変異がみとめられるので、同種の個体差であると思う」と述べ、livida を Ervilia bisculpta(ハマチドリガイ)の異名と見なした。その後も両者を同種と見做すのが一般的で[10][6][5]、他にも異名とされるものが複数ある。また、紅海に広く分布し、2012年に地中海東部への侵入が報告された Ervilia scaliola Issel, 1869に関しても、ハマチドリと同種と見なす研究者と別種とする研究者とがいる[11]。
類似種[編集]
この属の種は相互によく似ている上に、彫刻や殻形などの変異幅も大きいため分類は難しい。Marshall他(2016)[2]は海産動物データベースWoRMSにおいてこの属の現生種を以下の8種としているが、Huber(2010)[5]は、E. concentrica と E. scaliola の2つは種として認めていない。
人との関係[編集]
小型で食用などに適さないため、特段の関係はない。
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^ Gould (1861). “Descriptions of shells, collected by the North Pacific Exploring Expedition”. Proceedings of the Boston Society of Natural History 8: 14- 40. http://biodiversitylibrary.org/page/9492428.
- ^ a b c d e Marshall, B.; Bouchet, P.; Gofas, S. (2016). Ervilia Turton, 1822. In: MolluscaBase (2016). Accessed through: World Register of Marine Species at http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=138475 on 2016-05-11
- ^ a b c 松隈明彦 (2017). チドリマスオ科 (p.605 [pl.561], 1267) in 奥谷喬司(編著) 日本近海産貝類図鑑 第二版. 東海大学出版部. pp. 1375 (p.605 [pl.561 fig.3], 1267). ISBN 978-4486019848.
-
^ 河合秀高・木村昭一 (2015). “下北半島尻労の蛸壺から得られた微小貝類”. かきつばた (名古屋貝類談話会) (40): 256-57.
- ^ a b c d e Huber, Marcus (2010). Compendium of Bivalves. ConchBooks. pp. 901, 1 CD-ROM (p.345, 702-703). ISBN 9783939796282.
- ^ a b c d 波部忠重 (1977). 日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/堀足綱. 図鑑の北隆館. pp. xiii+372 (p.188, pl.36 (on p.189), fig.13).
-
^ Morton, B. S. & Scott, P. H. (1990). “Reloacation of Evilia Turton 1822 (Bivalvia) from the Meosdesmatidae (Mesodesmatoidea) to the Semelidae (Tellinoidea)”. The Veliger 33 (3): 299-304.
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^ 生物学御研究所編(解説:黒田徳米・波部忠重・大山桂) (1971). 相模湾産貝類. 丸善. pp. 741 (p.667, 英文p.434-435, pl.121, fig.1).
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^ 波部忠重. “A. A. Gouldの記載した日本産の貝類”. Venus 21 (1): 10-31.(p.19). (この論文では本種の和名が誤って「イソチドリ」とされている)
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^ Rooji-Schuiling, L. A. de. (1972). “Alien Mollusca in the Levantine Sea - an update. Occurrence of Ervilia scaliola Issel, 1869 along the Levantine coast of Turkey”. Malacologia 14 (1-2): 235-241.
- ^ a b Zenetos, A. & Ovalis, P.. (2014). “A preliminary report on systematics and distribution of the Evilia Turton 1822 (Mesodesmatidae, Bivalvia)” (pdf). Cahiers de Biologie Marine 55 (4): 507-510. https://zenodo.org/record/27476/files/Zenetos_Ovalis_Ervilia_CBM.pdf.
-
^ Marques, Rodrigo Cesar; Simone, Luiz Ricardo L. (Dec 2011). “A new species of Ervilia from north Brazil (Bivalvia ,Semelidae)”. Journal of Conchology 40 (6): 1-5.