ヒメ目
ヒメ科の1種 Aulopus purpurissatus
分類 界 :
動物界 Animalia 門 :
脊索動物門 Chordata 亜門 :
脊椎動物亜門 Vertebrata 綱 :
条鰭綱 Actinopterygii 亜綱 :
新鰭亜綱 Neopterygii 目 :
ヒメ目 Aulopiformes 下位分類
本文参照
ヒメ目(学名:Aulopiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。4亜目15科で構成され、44属236種が記載される[1]。ヒメやマエソなど海底付近で暮らす底生魚と、ミズウオ・ボウエンギョなど深海の中層を遊泳する魚類をともに含んだグループである。
分布・生態[編集]
ヒメ目の魚類は全世界の海洋に分布し、生息深度はごく浅い沿岸域から深海まで幅広い[1]。ヒメ科・エソ科・アオメエソ科・チョウチンハダカ科は底生性で、残るグループには中層あるいは海底付近を遊泳する漂泳魚が多く含まれる[1]。雌雄同体の種類が特に深海に住むものに多く、個体分布密度の低さへの適応例と考えられている。
エソ科魚類はその多くが漁獲対象とされ、主に練製品として利用される。
ヒメ目の仲間は一般に細長く、円筒形の体型をもつ[2]。形態学的な共通点としては、口が大きく鋭い歯をもつこと、脂鰭(あぶらびれ)をもつ種類が多いこと、浮き袋を欠くことが挙げられる[1][2]。
第二咽鰓骨は外側後方に長く伸びるなど[1]、鰓弓の構造は特殊化が進んでおり、他の硬骨魚類にはみられない本目の特徴となっている。仔魚の腹膜には色素沈着が認められる[3]。
現生のヒメ目魚類はヒメ亜目・アオメエソ亜目・ミズウオ亜目・ボウエンギョ亜目の4亜目に分けられ、15科44属236種で構成される[1]。他に絶滅したグループとして Ichthyotringoidei 亜目と Halecoidei 亜目が知られ、それぞれ3科10属以上および1科3属が記載されている[1]。1990年代以降、ヒメ目内部における科・属の位置付けや、亜目間での単系統性の評価について、さまざまな変遷が重ねられている[1]。
- ヒメ亜目 Synodontoidei(Aulopoidei)
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ホタテエソ
Pseudotrichonotus altivelis(ホタテエソ科)
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ニシアカエソ
Synodus intermedius(エソ科)
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ヒトスジエソ
Synodus variegatus(エソ科)
- 4科8属からなり、78種を含む。Nelson(2006)の体系ではBaldwin(1996)[4]およびSato(2002)[5]らの解析結果を踏まえ、ナガアオメエソ属が本目の中でもっとも原始的な一群であり、他のヒメ目魚類の姉妹群であるとする見解を採用している[1]。
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ナガアオメエソ科 Paraulopidae
- 1属10種で、主にインド太平洋に分布する底生魚の一群である[1]。最大で35cmほどに成長し、背鰭の鰭条数は10-11本[1]。
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ヒメ科 Aulopidae
- 2属10種を含み、Aulopus 属は大西洋、Hime 属は太平洋に分布する[1]。背鰭の起始部は体の前方にあり、鰭条数は14-22本。本科はかつて単独でヒメ亜目 Aulopoidei を構成していた。Hime 属の設置を認めず、Aulopus 属に含める意見もある[4]。
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ホタテエソ科 Pseudotrichonotidae
- 1属1種で、ホタテエソ P. altivelis のみを含む。背鰭の鰭条数は33本で、脂鰭を欠く。最大長は約9 cm。
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エソ科 Synodontidae
- 2亜科4属57種で構成され、三大洋に幅広く分布する[1]。雌雄異体である。マエソ・ワニエソ・オキエソなどは練製品の原料として漁獲対象となる。
- アカエソ亜科 Synodontinae 2属37種。最大長は60cmほど。
- ミズテング亜科 Harpadontinae 2属20種。汽水域に進出する種類もある。
- アオメエソ亜目 Chlorophthalmoidei
- 5科12属71種。
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オニアオメエソ科 Bathysauroididae
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オニアオメエソ B. gigas のみ、1属1種。他のグループとの関係は不明瞭なままで、暫定的にこの位置に置かれている[1]。
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アオメエソ科 Chlorophthalmidae
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アオメエソ属の1種
Chlorophthalmus agassizi (アオメエソ科)
- 三大洋の深海に分布する底生魚で、2属19種を含む[1]。眼が大きく、雌雄同体である。マルアオメエソなどの食用種を総称して「メヒカリ」と呼ぶこともある。
- Bathysauropsidae
- 1属3種。本属はかつてチョウチンハダカ科に含められていたが、Nelson(2006)において単独の科とされた[1]。
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フデエソ科 Notosudidae
- 3属19種からなり、北極および南極周囲の寒冷な海に生息する[1]。仔魚は上顎に歯をもち、ヒメ目の他の魚類には見られない特徴となっている。
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チョウチンハダカ科 Ipnopidae
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チョウチンハダカ科の1種(Ipnopidae sp.)。長く発達した鰭を用いて海底に直立する姿。胸鰭の鰭条はアンテナのように細長く、浮遊生物の捕捉に役立てられている
- 5属29種を含む。眼が小さく、板状の網膜しか残っていない種類もある。イトヒキイワシ属は胸鰭・腹鰭・尾鰭が著しく長く伸びる。
- ミズウオ亜目 Alepisauroidei
- 4科22属83種で構成される。かつて独立の Enchodontidae 亜目として分類されていた白亜紀の絶滅群、Cimolichthyidae 科および Enchodontidae 科の2科は、Nelson(2006)の体系では本亜目に含められるようになった[1]。
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デメエソ科 Scopelarchidae
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ヒカリデメエソ
Benthalbella infans (デメエソ科)
- 4属17種を含み、北極海と地中海を除くすべての海から知られている[1]。眼は大きく管状で、真上を向いている。舌の上に鉤のついた強靭な歯をもつ。全身に鱗がある。
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ヤリエソ科 Evermannellidae
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ミナミヤリエソ
Coccorella atrata(ヤリエソ科)
- 3属7種を含む。頭部と体には鱗がない。眼の大きさはさまざまで、ほとんどの種類は管状になっている。
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ミズウオ科 Alepisauridae
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ミズウオ Alepisaurus ferox(ミズウオ科)
- 2属3種。鱗を欠く。ミズウオ属の背鰭は鰭条が非常に長く発達する。キバハダカ属は、以前は独立のキバハダカ科 Omosudidae として扱われていた。
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ハダカエソ科 Paralepididae
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ハダカエソ Lestrolepis japonica(ハダカエソ科)
- 13属56種からなり、極圏を含む全海洋を分布範囲とする[1]。背鰭は体幹の中央から起始し、臀鰭の基底は長い。ミズウオダマシ属はかつてミズウオダマシ科 Anotopteridae として分類されていた。
- ボウエンギョ亜目 Giganturoidei
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シンカイエソ
Bathysaurus mollis(シンカイエソ科)。水深2,375mにて撮影
- 2科2属4種で構成される。シンカイエソ属はかつて所属したエソ科から本亜目に移動され、単独の科とされた。
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シンカイエソ科 Bathysauridae
- 1属2種。頭部は強く縦扁し、平べったくなっている。深海で底生生活をし、雌雄同体である。
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ボウエンギョ科 Giganturidae
- 1属2種を含む。いずれも遊泳性の深海魚で、眼球が大きく突出した管状眼をもつ。胃は伸縮性に富み、大型の獲物を飲み込むことが可能となっている。胸鰭の位置が高く、鰓よりも上にある。尾鰭の下側の鰭条が長く伸びる。本科魚類は発生機序に特徴があり、前上顎骨・頭頂骨・後側頭骨などいくつかの骨格を欠く。
Davis and Fielitz(2010)による分子・形態双方のデータからの系統解析では、以下のような系統樹が得られている[6]。この場合、ボウエンギョ亜目・アオメエソ亜目は単系統とならない。
ヒメ目 アカエソ亜科 Synodontinae
ヒメ科 Aulopidae
ミズテング亜科 Harpadontinae
ホタテエソ科 Pseudotrichonotidae
ナガアオメエソ科 Paraulopidae
ボウエンギョ科 Giganturidae
シンカイエソ科 Bathysauridae
チョウチンハダカ科 Ipnopidae
アオメエソ科 Chlorophthalmidae
フデエソ科 Notosudidae
デメエソ科 Scopelarchidae
ヤリエソ科 Evermannellidae
ハダカエソ科 Paralepididae(ミズウオ科 Alepisauridaeを含む)
†Enchodontidae
出典・脚注[編集]
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 『Fishes of the World Fourth Edition』 pp.214-223
- ^ a b 『新版 魚の分類の図鑑』 pp.72-73
-
^ 『Origin and Phylogenetic Interrelationships of Teleosts』 pp.144-145
- ^ a b Baldwin CC, Johnson GD (1996). Interrelationships of fishes. San Diego: Academic Press.
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^ Sato T, Nakabo T (2002). “Paraulopidae and Paraulopus, a new family and genus of aulopiform fishes with revised relationships within the order”. Ichthyol Res 49: 25-46.
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^ Matthew P. Davis, Christopher Fielitz (2010). “Estimating divergence times of lizardfishes and their allies (Euteleostei: Aulopiformes) and the timing of deep-sea adaptations”. Molecular Phylogenetics and Evolution 57 (3): 1194–1208. doi:10.1016/j.ympev.2010.09.003.
参考文献[編集]
ウィキメディア・コモンズには、
ヒメ目に関連するメディアがあります。
ウィキスピーシーズに
ヒメ目に関する情報があります。
外部リンク[編集]