アンコウ目(学名:Lophiiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。3亜目18科66属で構成され、アンコウ・カエルアンコウなど313種を含む[1]。所属する魚類はすべて海水魚で、チョウチンアンコウ類など深海に生息する種類が多い。
アンコウ目の魚類は北極海・南極海の周辺を含めたほとんど全世界の海洋に分布し、大半の種類は水深200m以深を主な生息域とする深海魚である。大きく3亜目に分けられ、アンコウ亜目・カエルアンコウ亜目は砂地の海底で生活する底生魚を多く含む。残るアカグツ亜目のうち、アカグツ上科・フサアンコウ上科の魚類は一般に底生性であるが、チョウチンアンコウ上科の多くは深海の中層で浮遊生活を送る遊泳魚である。これらのチョウチンアンコウ類は、漸深層(水深1,000 - 3,000m)における遊泳性魚類として、種類・数の両面で優位な地位を占める存在である。
アンコウ目魚類の重要な特徴として、頭部から釣竿のように細長く突き出た誘引突起(イリシウム)の存在がある。これは背鰭の第1棘条が変形したもので、アンコウ類は誘引突起をルアーのように動かして餌をおびき寄せるために使用する[2]。誘引突起の先端がさらに変形し、膨化した部分を擬餌状体(エスカ)と呼ぶ。チョウチンアンコウの仲間など、擬餌状体で発光バクテリアによる共生発光を行う種類も少なくない。
アンコウ(Lophiomus setigerus)などアンコウ亜目の魚類とアカグツ亜目の一部(アカグツ科など)は、縦方向につぶれた縦扁型をしており、砂地での底生生活に適応している。カエルアンコウ亜目・アカグツ亜目(チョウチンアンコウの仲間)では卵型から球型の丸みを帯びた体をしている。
腹鰭(1棘4-5軟条)がある場合は、胸鰭より前方に位置する[2]。鰓(えら)の孔は小さく管状で、普通は胸鰭よりも後ろに開口する。骨格上の特徴としては、鰓条骨は5-6本で、肋骨を欠き、頭蓋骨が直後の椎骨と癒合する点が挙げられる。鱗をもたない種類が多く、皮膚には突起物や皮弁が発達している[2]。
アンコウ目はアンコウ亜目・カエルアンコウ亜目・アカグツ亜目(チョウチンアンコウ亜目とも[2])の3亜目の下に、18科66属313種が所属する[1]。分類体系は研究者により異なり、亜目以下の下位分類群は必ずしも一定していない。フサアンコウ上科・チョウチンアンコウ上科をそれぞれ独立の亜目として扱うこともある。
アンコウ亜目 Lophioidei は1科4属25種で構成される。各亜目間の分類には背鰭の棘条が重視され、アンコウ亜目の場合は頭部後方に1-3本の棘条があることが特徴となっている。腹鰭をもち、大きな口には犬歯状の鋭い歯が並ぶ。
アンコウ科 Lophiidae は4属25種からなり、地中海を含む大西洋・インド洋・太平洋および北極海に分布する。アンコウ・キアンコウなどの食用種を含む。誘引突起が発達し、餌の捕食に利用している[2]。
頭部は非常に大きく、縦方向につぶれ平たくなっている。下顎の周囲から頭部にかけての皮膚には、多数の皮弁が発達する。
カエルアンコウ亜目 Antennarioidei は4科15属48種で構成される。本亜目はかつてイザリウオ亜目と呼ばれていたが、差別的用語を含むとして、日本魚類学会により2007年に亜目名・科名・種名が変更された[3]。
ほとんどの種類は海底付近で暮らす底生魚である。頭部には背鰭の棘条が3本、それぞれ独立して存在する。腹鰭をもち、胸鰭はしばしば腕のような形状をしている。体は皮膚が変形した小さな突起によって覆われる。前頭骨は後部のみ癒合する。
カエルアンコウ科 Antennariidae は12属42種を含み、地中海を除く世界の熱帯・亜熱帯海域に分布する。大半は底生魚であるが、ハナオコゼ属の仲間は例外的に表層性で、ホンダワラなどの流れ藻に帯同した浮遊生活を送る。形態や色彩の変異に富む種類が多く、観賞魚としても知られる一群である。
体高は高く、口は大きい。口蓋骨に歯をもつ。誘引突起の形態は種によってさまざま。腹鰭と胸鰭が発達し、海底を歩くように移動する[2]。多くの種類は浮き袋をもつ。
Tetrabrachiidae 科は1属1種で、フォーアームド・フロッグフィッシュ(T. ocellatum)のみが所属する。オーストラリア・ニューギニア島・モルッカ諸島などの近海に生息し、体長7cm程度の小型魚類である。
体は細長く、側扁する。口と眼は小さく、口蓋骨の歯および浮き袋を欠く。本種はカエルアンコウ科に含まれる場合もある。
Lophichthyidae 科は1属1種で、L. boschmai のみを含む。ニューギニア島西部とアラフラ海に分布する。口蓋骨には歯がある。本種はカエルアンコウ科に含まれる場合もある。
ブラキオーニクテュス科 Brachionichthyidae は1属4種からなり、タスマニア島周辺を中心としたオーストラリア南部の沿岸に分布する。少なくとも3種の未記載種が知られる。イタリアの始新世の地層から、現生種と類似した形態をもつ化石種が見つかっている。
体高は高く、皮膚は突起で覆われる。背鰭の第2・第3棘条は独立せず、鰭膜によってつながっている。
アカグツ亜目 Ogcocephalioidei は3上科13科47属240種で構成される。本亜目の背鰭は2番目の棘条が退化し、皮膚に埋没する。第一鰓弓の鰓弁を欠く。腹鰭の有無は種によってさまざま。
アカグツ亜目は系統的にカエルアンコウ亜目を起源とし、フサアンコウ科、アカグツ科を経て他の11科(いわゆるチョウチンアンコウ類)に進化したグループであると考えられている。Nelson(2006)ではそれぞれをフサアンコウ上科・アカグツ上科・チョウチンアンコウ上科に分類している。
フサアンコウ上科 Chaunacioidea は1科2属14種で構成される。
フサアンコウ科 Chaunacidae は2属14種を含み、三大洋の深海に広く分布する。2,000m以深に分布する種もあり、ピンクや赤みがかったオレンジなど、鮮やかな体色をもつ。
体型は球状で、カエルアンコウに類似する。皮膚は突起やトゲで覆われる。誘引突起をもつが、背鰭の他の棘条を欠いている。頭部には溝があり、誘引突起を収めることができる。
アカグツ上科 Ogcocephalioidea は1科10属68種で構成される。
アカグツ科 Ogcocephalidae はアカグツ・フウリュウウオなど10属68種を含み、地中海を除く全世界の熱帯・亜熱帯海域に分布する。通常は深海性で、外洋の大陸棚および大陸斜面から、水深1,500-3,000mにかけての範囲に生息するものが多い[1]。沿岸近くや河川にまで進出する種類も少数ながら知られている。
体は強く縦扁し平べったく、無数の突起で覆われる[2]。腕のように大きく発達した胸鰭で、海底を歩くように移動する種類が多い。誘引突起は比較的短く、頭部に収納するためのスペースがある。背鰭の第2棘条が不明瞭ながら存在する。
チョウチンアンコウ上科 Ceratioidea は11科35属158種で構成され、ほとんどの科は地中海を除く全世界の深海に分布する。フサアンコウ上科・アカグツ上科を起源とし、深海中層の生態系において重要な位置を占める一群である。ほとんどの種類は体長8cmに満たない小型の魚類で、外洋の深海(特に水深1,000 - 3,000mの漸深層)を漂泳し、誘引突起を利用して餌を捕食する。誘引突起を持つのは基本的に雌だけで、発光バクテリアによる共生発光を行うなど機能の発達が著しい。本上科に共通の形態学的特徴として、腹鰭・鱗を持たないこと、前頭骨が癒合しないことなどがある。
体格上の性的二形が顕著で、雄は雌の3分の1から13分の1程度の大きさしかない。このように雌と比較して極端に小さい雄を矮雄(わいゆう)と呼ぶ。ミツクリエナガチョウチンアンコウ科など少なくとも4科の雄は、雌に寄生して生活することが知られている。これらの寄生性の雄は種に特異的なフェロモンを介して雌を発見し、腹部に噛み付いて一体化する。雄の体には雌の血管が伸びて栄養供給を完全に依存するようになり、生殖以外の機能は退化する。
変態を行う前の幼魚(浅海で生活することが多い)はしばしば親魚とまったく異なる形態をとり、同一種でありながら雄・雌・幼魚が別の種類として認識されていた例もある[1]。捕獲されることが稀な種類が多く、雄・雌・稚魚のいずれかしか見つかっていないもの、ごく少数の標本に基づき記載されている種類もある。
ヒレナガチョウチンアンコウ科 Caulophrynidae は2属5種からなる。雄は雌に寄生するが、性成熟は寄生の有無と関係なく達成される。
誘引突起に発光器官をもたない。幼魚の時点では腹鰭をもっており、これはチョウチンアンコウ上科の中では本科のみにみられる特徴である。背鰭と臀鰭が大きく発達している。
キバアンコウ科[4] Neoceratiidae は1属1種で、キバアンコウ Neoceratias spinifer のみが所属する。雄は寄生性で、雄・雌それぞれが性成熟に到達するためには、雄が雌へ付着することが必須条件であると考えられている。同様の性質はミツクリエナガチョウチンアンコウ科・オニアンコウ科にも認められる。
誘引突起をもたず、雌は口からはみ出すほど大きな可動性の歯をもつ。
クロアンコウ科 Melanocetidae は1属5種を含む。誘引突起をもち、背鰭の鰭条数は12-17本と比較的多い。
チョウチンアンコウ科 Himantolophidae は1属18種からなる。チョウチンアンコウの名前は本亜目の総称として使用されることもある。チョウチンアンコウ上科の中では大型の仲間で、雌は50cm近くにまで成長する。雄は4cm未満だが、寄生はせず自由生活を送る。本科に限らず、自由生活性のチョウチンアンコウ類の雄は変態後に一切の餌をとらず、仔魚期に蓄えた栄養のみで生活する。
吻(口先)は短く、丸みを帯びている。チョウチンアンコウ上科の中で唯一、生涯を通じて頭頂骨をもたない。全身がトゲをもつ骨板で覆われる。
フタツザオチョウチンアンコウ科 Diceratiidae は2属6種を含み、世界の熱帯・亜熱帯海域の大陸棚・大陸斜面周辺に分布する。頭部前方の誘引突起に加え、もう1本の発達した棘条を持つことが特徴。
ラクダアンコウ科 Oneirodidae には16属62種が所属し、チョウチンアンコウ上科の中で最大のグループとなっている。一部の属は寄生性の雄をもつ。体は滑らかか、あるいは短いトゲに覆われる。
タウマティクテュス科 Thaumatichthyidae は2属7種からなり、大西洋と太平洋に分布する。本上科の中では例外的に、底生生活を送る種類が多い。形態はラクダアンコウ科に類似するが、上顎が下顎よりかなり長いことが特異な点である。
ザラアンコウ科[4] Centrophrynidae は1属1種で、ザラアンコウ C. spinulosa のみが所属する。体は微小なトゲに覆われる。
ミツクリエナガチョウチンアンコウ科 Ceratiidae はミツクリエナガチョウチンアンコウなど、2属4種からなる。チョウチンアンコウ上科の中では最も大きくなるグループで、ビワアンコウ(Ceratias holboelli)は最大1.2mにまで成長する。雄は寄生性で、性成熟には雌への寄生が必須である。
口が大きく傾き、斜め上を向く。背鰭軟条部の前方に、2-3本の肉質の突起をもつ。
シダアンコウ科 Gigantactinidae は2属22種からなる。体は細長い。誘引突起が著しく伸長しており、体長と同等かそれ以上に長いことがある。上顎はわずかに下顎より長い。
オニアンコウ科 Linophrynidae には5属23種が含まれ、大西洋・インド洋に分布する。雄は雌に寄生し、寄生後に両性の性成熟が起こる。
アンコウ目(学名:Lophiiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。3亜目18科66属で構成され、アンコウ・カエルアンコウなど313種を含む。所属する魚類はすべて海水魚で、チョウチンアンコウ類など深海に生息する種類が多い。