アミタケ(学名:Suillus bovinus)はイグチ目ヌメリイグチ科(Suillaceae)の ヌメリイグチ属に分類されるキノコの一種である。
かさは半球形からほぼ平らに開き、径3-10cm程度、帯紅淡黄褐色ないし灰黄褐色を呈し、著しい粘性を示し、表皮は剥げにくい。肉は肌色〜クリーム色で柔らかく、傷つけても変色せず、味もにおいも温和である。
かさの裏面の子実層托は管孔状を呈するが、孔は大きくて浅く、その孔口は放射状に長い楕円形をなす。管孔は幼時は淡黄色であるが、成熟すれば帯オリーブ褐色ないし暗灰褐色となり、管孔層は柄に垂生し、かさの肉から分離しにくい。柄はほぼ上下同大または基部が僅かに細まり、長さ3-6cm、径3-8mm程度、くすんだ肌色あるいは淡い黄褐色で、粒点や網目を生じることなくほとんど平滑、粘性はなく、中実である。
胞子紋は暗い帯オリーブ赤褐色を呈する。胞子は細長い紡錘状楕円形で表面は平滑、顕微鏡下では黄褐色を呈し、時に1-3個の油滴を含む。縁・側シスチジアはこん棒状ないし円柱状をなし、特に乾燥した子実体では内容物が暗褐色を呈する。かさの表皮層は、ゼラチン質に埋もれつつ匍匐した菌糸で構成され、その細胞壁の外面には、暗褐色の色素粒が膠着する。すべての菌糸はかすがい連結を欠いている。
主として夏の終わりから秋にかけて、アカマツ・クロマツなどの二針葉マツの樹下に点々と群生する。これらの樹木の細根と菌糸とが結合し、典型的な外生菌根を形成する。
アミタケの子実体の周辺には、しばしばオウギタケが随伴して発生することがある。オウギタケが、地下に存在するアミタケの菌糸(あるいはその遺骸)を栄養源として利用しているのではないかと考えられている。[1]
また、老成した子実体上には、子嚢菌類の一種であるHypomyces transformans Peck(ヒポミケス属) が発生することがある。寄生されたアミタケの子実体は、薄いフェルト状で黄色ないし淡黄褐色を呈する菌糸のマットに包まれ、その上に鈍い橙褐色あるいは黄褐色で微粒状をなしたH. transformans の子嚢殻が多数密生する。しばしば、管孔も完全に菌糸のマットにふさがれて、一見したところアミタケとは思えない形状を呈することがある[2]。
人工培地上での胞子の発芽率はごく低く(0-0.01%程度)、発芽したとしても培地上に胞子を置床してから一カ月以上を有するという[3]。無菌的に育てたマツの苗とともに、培地上で二員培養しても、その発芽率は 0.01%程度であるが、酵母の一種(Rhodotorula glutinis)や、組織培養によって得たアミタケの純粋培養株とともに二員培養すると、発芽率が 0.01-0.1%程度に向上するとともに、胞子を培地上に置床してから発芽するまでの日数も一カ月以内に短縮されるとの実験結果がある[3]。
北半球の温帯以北(ユーラシア・北アフリカ・東アジア)に産するが、アメリカ大陸には分布しない[4]。日本では、北海道から沖縄まで広く分布する[5]。オーストラリアでも採集されるが、これはマツ属の樹木の植栽に伴って帰化したものである可能性がある。
同属に置かれるチチアワタケは、外観がよく似ており、発生環境も共通するためにしばしば混同されているが、かさの裏面の管孔がアミタケと比較して小さくて丸いことや、加熱しても赤紫色に変色しないことなどにおいて異なる。同じくアカマツやクロマツの林内に普通に見出されるヌメリイグチは、柄に灰紫色ないし紫褐色のつばを備える点で区別される。
欧州の中世の騎士階級はアミタケよりキシメジを高貴な品と見なし、アミタケを農民階級向けと考えていたというが、実際には農民にもあまり好まれていなかった[6]。
紛らわしい毒キノコが存在せず、独特の粘性が好まれ、収穫量も多くキノコ狩りのベテランから初心者まで幅広い人気がある。粘性を生かし、そのまま味噌汁に加えたり、茹でたものを大根おろし和えなどにするほか、煮物や鍋物などに加えたりすることもある。加熱すると赤紫色に変色する。(なお、小さな虫の幼虫が入っていることが多く、調理前に中を裂いて確認したほうが良い)
福島第一原子力発電所事故以降の放射性物質検査で、岩手県釜石市・陸前高田市・平泉町、福島県磐梯町、群馬県長野原町、山梨県富士吉田市・富士河口湖町で採取された野生のアミタケから規制値の100 Bq/kgを超える放射性セシウムが検出されている(2017年現在)。厚生労働省や県は該当地域での採取・出荷及び摂取の自粛を呼び掛けている[7]。
本種は、グルコースおよび無機塩類とビタミン(ピリドキシン・ビオチン・アデニン硫酸塩など)を含んだ培地を用いて培養することができ、生育はpH5付近でもっとも良好である。多くの外生菌根形成菌の培地上での発育を促すニコチン酸・チアミン塩酸塩などは、むしろ阻害的に働くという[8]。
滅菌した種子を発芽させて育成したアカマツの無菌苗に、アミタケの培養菌糸体を接種することにより、苗の細根に外生菌根を形成させる試みが行われ、いちおうの成功をみてはいるが、この苗をマツ林に移植してアミタケの子実体を発生させるにはいたっていない[9]。アカマツ林の下草および腐植層を除去した後、粉砕したアミタケの子実体の水懸濁液を散布することによる増産の試みもなされているが、まだ技術的な確立をみたとはいえない。