チチタケ(乳茸、Lactarius volemus (Fr.:Fr.) Fr.)はベニタケ目ベニタケ科チチタケ属チチタケ節のキノコ。
夏から秋にブナ科の林に群生する。傘は茶色から赤茶色。ひだは密で白色だが、古いものはやや黄色い。傷をつけると多量の乳液が出て褐色に変化する。肉はやや茶色いが、ほぼ白色でやや渋みがある。無臭。傷口はひだと同じく変色する。柄の表面は傘とほぼ同色。
傷をつけると出てくる乳液は、ゴムノキなどが生成する天然ポリイソプレンの低分子を主成分としており、ゴムの分子構造研究の格好の材料ともなっている。この乳液の量はチチタケ1個体につき2.5〜4.3パーセントを占めるという[1]。
食用となるが、地域によってはぼそぼそした食感が好まれず[2]、見向きもされない場合もある[2][3][4]。しかし香りが強く、調理法によっては独特の良い出汁が出るため、うどんや蕎麦のつゆなどに具として用いられる場合もある[2][3][5]。特に栃木県ではチチタケとその近縁種[6]はチタケの名で好んで食べられ、炒めたナスとチチタケをつゆに用いる「ちたけそば」は代表的な郷土料理として親しまれている[3][5]。またヨーロッパにもチチタケを食用する習慣があり、ありふれたキノコとして市場に流通している地域もあるという[1]。
近縁種のヒロハチチタケ (L. hygrophoroides ) 、チリメンチチタケ(L. corrugis )も同様に食用となる[7]。福島県産のチチタケ類はチリメンチチタケが多いとされるが、味はチチタケに劣るとされる[6]。なお近縁種にはキチチタケのように食用には不適[8]、もしくは有毒とされる種類もある。
日本の栃木県では毎年のシーズンになるとこのキノコを目当てに山林に分け入り、遭難し死傷する者が後を絶たないほどの人気があった[9]。栃木県でチチタケを食用とする習慣は少なくとも江戸時代の享保年間の時点で記録が存在し[10]、かつては身近な食用キノコであったと考えられている[4]。しかし1990年代から2000年代頃になると、乱獲や雑木林の荒廃などによって栃木県内産のチチタケは減少傾向にあり、生の日本産がマツタケ以上の高額で取引される場合もある一方、安価な中国からの輸入品が水煮などの形でスーパーマーケットに出回るようになった[3][11]。
チチタケはキノコの中でも放射性物質を取り込みやすい傾向が高いといわれる[12]。2011年3月11日の東日本大震災では、栃木県と隣接する福島県で福島第一原子力発電所事故が発生し、チチタケの消費地や産地に深刻な放射能汚染の被害を及ぼした。2011年9月には福島県棚倉町に自生していたチチタケから、当時の暫定規制値(1キログラムあたり500ベクレル)の56倍に相当する1キログラムあたり28,000ベクレルの放射性セシウムが検出されており[13][14]、翌年の2012年10月には福島から離れた青森県でも、その時点での食品衛生法の基準値(1キログラムあたり100ベクレル)を上回る1キログラムあたり120ベクレルの放射性セシウムが検出されている[12]。
2017年現在、山形県、福島県、栃木県、長野県で規制値の100 Bq/kgを超える放射性セシウムが検出されている。厚生労働省や県は該当地域での採取・出荷及び摂取の自粛を呼び掛けている[15]。